「義夫おばさん 痔の手術に行く!」

これは、昨年末に初めて「手術」というものを体験した私の、
殴り書きのメモをもとに書いた実話です。
「この物語は、ノンフィクションで登場する団体・人物は全て本物です」

■第1話  2004年12月23日 手術前日

「ねぇ、明日さ、痔の手術なんだけれど痛いかなぁ」
「当たり前でしょ、イボッたって切るんでしょ、痛いに決まってるわ」
「そっか・・なんだか憂鬱なんだよなぁ、俺・・」
「なに今更言ってんのよ、男でしょ、しっかりしなさいよ」

私の中の男と女が、いつものように会話を始めている。
もちろん、2人とも私の気持ちに変わりはないのだけれど・・。
この彼氏と彼女の会話、もうしばらくおつきあいください。

「やっぱりさ、ビジネスホテルに前泊するっていったけど、
お風呂なんて、ちっちゃなユニットバスだよ。
自宅のお風呂で、しっかり洗っていったらどう?」
「そうかな、今日の夜、どうせすることないんだろうから、
ゆっくり洗おうと思ってたんだけど、ダメかな」
「え〜、そんなこと言うけど、あなたのことだから、
テレビかなんか見てて、すぐ寝ちゃうんじゃないの。
絶対に今、洗っておいた方がいいわよ」

今回は、彼女の意見に押され、朝からお風呂に入ることにした。
久しぶりの朝風呂、昨日の忘年会のアルコールは残っていない。
そうだ、今年は飲まなかったんだ・・と思い出して苦笑い。

「しっかり、丁寧に洗いなさいよ」
「うん、わかってるって・・。それにしても、本当にこれがなくなるのかなぁ」
「あぁ、ダメダメ。敏感なところなんだから」
「痛・・今、傷つけたら先生に怒られちゃうかな、でも変な感じ、とほほ」
「ははは、奥さんにだけは、薬を付けてもらう時に見せたんだったよねぇ」
「うん・・恥ずかしかったけれどね。自分では塗れなかったもの、薬」
「あの時、大笑いして『乳頭みたい』なんて言われてたね」
「・・・まったく、人の気持ちも知らないで・・B型だから・・(笑)」
「怒られるよ、奥さんなりに心配しているんだからさ」

半身浴で、汗びっしょりになり、気持ちはさっぱり。
入院前、最後の計量・・69.8キロ。
風邪をひかないように、しっかり着込んでパソコンに向かった。
入院先の神奈川県大和市まで、時刻表を調べるためである。
候補を何本かプリントアウトして、電源オフにしようとしたら、
彼女が慌てて、彼に向かって叫んだ。

「そういえば・・毎日続けているメルマガ、どうすんの?」
「う〜ん、書かないでいくよ。だって、読んでくれている人は
私が『痔』の手術で入院ってわかっているだろうから、
届かなかったら、そうか!入院したんだ・・って思うだろう・・」
「そうかなぁ、私はしっかり書いていった方がいいと思うよ。
今度いつになるかもわかんないんだから・・」
「おいおい、脅かすなよ。すぐ帰ってくるつもりなんだから」

またまた、彼女の意見に軍配が上がり、書きはじめた。
実は、本人「痔の手術、行ってきま〜す」の1行ですますつもりだったから
彼女の意見でちょっと予定が狂った。
そんなわけで、書き上げたのが「ではまた来週、さようなら」

□ 2004年12月23日(木)  ではまた来週・・さようなら □
明日からの入院に備えて、今日から前泊する。
そこで、しばらく「気になる一言」もお休み。
もちろん、手術の最中もメモは取り続け、
「爆笑、痔の手術のあれこれ」(酔っぱライター・・い) をお届けする予定。
乞う、御期待。
そこで、今日は貴重な読者に何か残しておこう、 と書きはじめたが、
これがまた、ボキャブラリー不足で 素敵な言葉が思い浮かばない。
すると、なぜか思いついたのが、このフレーズだった。
ロッテ歌のアルバム、玉置ひろしさん?(笑)ではないけれど
だいたい連続番組の終わりには、この台詞が多い。
たぶん1週間もかからず、復活すると思うけれど、
洒落た台詞より、私らしいかな・・と気になる一言にした。
復活の第一声は、どんな一言になるのだろうか? 自分でも楽しみである。

追伸 メルマガ読者様へ 数日届かないと思いますが、気長にお待ち下さい。

さて・・話を進めよう。
こんなに細かく書いていたら、超大作になってしまうから・・。
タクシーで三島駅まで行き、藤沢までのキップを買った。
「小田原乗り換え」も考えたが、今回は迷うことなくコースを決めた。

「へぇ〜、珍しいねぇ、あなたが迷わないなんて・・」
「俺だって、そういう時もあるんだ。悪い?」
「別に悪くないけれど・・なんだか無理矢理変えようとしてない?」
「あれっ、どうしてわかっちゃったの・・。
この入院をなにかのキッカケにしたいんだよねぇ、俺としては」
「そんなに意識しなくてもいいんじゃないの。誰も期待してないって・・」
「・・・・・」
「ほら、すぐすねるんだから・・はいはい、生まれ変わりましょうねぇ」

■第2話

そんな心の葛藤をしている時、登りホームで不思議なことが起きた。
ジャイアンツカラーの携帯電話が、
同時に4通のメールを受信しはじめ、 私を驚かせた。

「えっ、誰々?」
「いいじゃん、誰だって・・」
「あっ、奥さんに内緒の人だな。言い付けてやろうっと・・」
「バカなこと言ってんじゃないよ。いいだろ、誰だって」

受信者は「大丈夫?」というタイトルの我が娘。
なんと励ませばいいかわからないれど(「頑張って、って変だよね?」)
頑張って・・みたいな内容だった。
「こしじひびき様」と題したメル友。 「手術はいつ?」と心配してくれた。
続いて、横浜に住む、ジャイアンツ狂の親友。
「大痔主様へ」と題し「今日のスケジュール教えて」と本文。
(まさか、今日は前祝いで飲みに行くかぁ・・じゃないよねぇ・・)
そして「おだいじに」と題したメル友。
「物書きには全てがネタです」とまとめられたメールは、
「病院って一つの世界だよね〜」と励まされたようだった。
久しぶりの東海道本線、熱海で乗り換えた。
ここで、ちょっといつもと違うことがしたくなった私。

「今日は、手術前の大切な身体だからさ・・・」
「だから、な〜に?」
「藤沢まで、グリーン車って・・・どう?」
「まったくこれだからね、こんなことだろうと思ったよ」
「こんな機会、そう何度もある訳じゃないからさ、ねっ、いいだろう?」
「もう私に相談する前に、決めているんでしょ」
「まったく、なんでもお見通しなんだから、参ったなぁ」

そんな訳で、突然、車両を乗り換えてグリーン車へ。
「藤沢まで1200円になります」と車掌さんの声。
追加のお金は、取材代として・・・(笑)
しかし、またまたトラブルが発生。
熱海で乗り換えの時、数分後の「快速アクティ」を待ちきれず、
今の電車に乗り込んだのだが「国府津」で追い越されてしまう。
もちろん、アクティのグリーン車もガラガラ空き。

「ねぇ、ちょっと・・。最初からグリーン車に乗るつもりなら、
藤沢に早く到着するアクティのグリーン車にすればよかったのに・・」
「う〜ん・・・痛いところをつくね、相変わらず」
「だって、誰が考えてもそう思うでしょ、何考えてんの?」
「ごめ〜ん、なにも考えてなかった・・(汗)」
「そんなことだと思ったよ、あなたのことだから」

さて、2人の会話を1人で楽しみながら、目的地、大和駅へ。
時間は、午後3時半。
たしか・・ホテルのチェックインは、午後5時だったよなぁ・・

「ちょっと早く着き過ぎちゃったぞ、どうしようかな」
「えっ・・時間を調べてきたんじゃないの」
「うん、調べたけどさ、早く着いたら大和駅周辺をブラブラしようと思って」
「そうか、これから何度か来るかもしれないしね、私もそう考えたかも」
「でしょ、でしょ?。よかった、また文句言われるのかと思った・・ほっ」
「ばかねぇ、私だっていつもいつも、怒ってなんていないわよ、ただ・・」
「ただ? なに?」
「あまりに計画性がないから、イライラしちゃうのよ」
「O型だから大雑把なんだよ、もしかしたらA型?(笑)」
「まさか、O型とA型は、相性がいいんだよ、なんて言うんじゃないでしょうね」
「・・・・・」

予想以上に寒かったので、チェックインの時間までファミレスにでも行こう・・と
駅前をぐるっと見渡すと、ビルの二階に「BILDY」と書かれた看板が目に付いた。
店内には、クリスマスソングが流れ続け、いつもなら目にしないような、
父と息子という組み合わせが、クリスマス・イブ前日の祭日を象徴しているようだった。
「何にいたしますか?」
「ドリンク・バー」
主語も述語もない、ただ単語だけの会話は味気なかったが、
幸せそうなファミリーをみていたら、なぜか寂しくなってしまった。
私は、三島駅のホームで購入し、グリーン車の中だけでは読み切れなかった
単行本をパックから取り出し、読みはじめることにした。

「ねぇ・・ちょっと・・」
「なんだよ、もう少しで読み切るから静にしてくれないか」
「あらっ、本を読む時は、ばかに強気なのね(笑)、
でも・・・ 向かいに座ったお年寄りが、なんだかさっきからこっちをじっと見てるのよ」
「気のせいじゃないのか。誰かと待ち合わせをしているんだろう、きっと」
「そんなことない、ぼ〜っとして、こちらを見てるって、絶対」
「きっと、私も一人なんで、寂しい中年とでも思っているんじゃないの?」
「あっ、そうかもね・・(笑)。でも、なんだか寂しそうだなぁ、あのおじいさん」
「俺は、スーパー袋を持って隣に座った女性の方が気になったな、
ちょっと私好みだったし・・」
「なんだ、本を読んでいるのかと思ったら、しっかりチェックしているんじゃないの」
「うん・・ま〜ね、一応、男だから」
「へ〜、そうなの。私はとっくに男はやめて、おばさんになったのかと思ってた」

■第3話

そうこうしているうちに、時間は午後5時。
横浜に住む、ジャイアンツ狂の親友から、メールが届く。
「仕事の帰りだけれど、家族で待ち合わせしたから、一緒に夕飯食べよう」
ホテルにチェックインして、さっそく外出となった。
「なに食べたい?」
「なんでもいいよ、明日からは病院食だから」
「そっか・・まぁ、大和へ来たからには『中村屋』のラーメン、行ってみるか?」
「そうだね、やっばり」
何度か訪れたことがある中村屋のラーメン、今日は珍しく行列がほんのわずか・・
本当にラッキーとしか言いようがなかった。
「塩ラーメンとネギチャーシュー丼」 やっぱり、何度食べても美味しいものは美味しい。
余談であるが、中村屋バージョンのキティちゃんストラップを、娘さんが買った。
お店の中では、第1号の購入者だったらしい。私も買えばよかった・・(汗)
「ついでに、お茶でも・・」と思ったが、たぶんコーヒーも刺激物だから・・ と弱気になり、
ホテルへ戻ることにした。
テレビでは、女優「松たか子」さんが「私、入院したことがないんです」と
司会のKinki ki'sに話しかけているシーンが映し出された。
「明日入院する日に、偶然とはいえ、まさかそんな台詞を聴くことになるなんて」と
1人で笑いながらメモ帳を取り出した。

「あっ!!」
「どうしたのよ、急に大きな声を出して、びっくりするじゃないの」
「ご、ごめん。携帯の充電器、忘れてしまったんだ」
「え〜、それは大変だよ、家族との連絡はメールでしようと思ってたんでしょ」
「うん、今まで、どこへ行くにも、忘れたことがなかったんだ。
パンツを忘れても、 携帯の充電器は忘れなかったもの」
「くだらないことで自慢しないの。奥さんにメールしたらどう?」
「そうだね・・あっ、やばぁ〜。
今日、携帯メール使い過ぎて、もう少しで電池がなくなりそうだ」
「まったく・・最近、注意力散漫じゃないの」

(奥さんにメール「携帯充電器、忘れたみたい・・」と送信、
「机の上にあったよ、明日、持っていきます。少し落ち着いたら・・」と返信)

「よかった、自宅にあったって。明日、持って来てくれることになったよ」
「いつものあなたとちょっと違うね。興奮しているの?」
「なんたって、初めてのことだから・・手術がさ。麻酔が効き過ぎちゃったら、
とか、血が止まらなくなっちゃったら・・なんて考ヲたら寝られないよ」
「大丈夫よ、横になったら、すぐ寝られるから・・あなたなら」

彼女の言葉どおり、爆睡の私であった。

■第4話

2004年12月24日 手術当日

なぜか、早朝5時に目が覚めてしまった。
7時に、モーニングコールをセットしておいたのに。

「おはよう・・目が覚めた?」
「うん、覚めたというより、落ち着かなくて目が開いちゃったって感じだね」
「いよいよだね。大丈夫よ、私がついてるから」(笑)
「でもさぁ、なんだか気になるよね。チンチンは寒さでちっちゃくなってるし」
「本当にさ、少し落ち着いてよ。誰もあなたのチンチンなんて気にしてないわよ。
相手は、お医者さんなんだし、看護婦さんだって興味ないと思うよ」
「そうかなぁ。まぁ、一応、シャワー浴びてキレイにしてくる・・」
「まぁ、好きなようにしなさい。見られることは見られるからね、
それより、しっかりお尻は洗いなさいよ。いじられるんだから・・」(笑)
「・・・・・」
「ねぇ、丁寧に洗った?」
「これがなくなるのかぁ・・どんな感じかなぁ」
「ばかね、早くしまいなさい、今風邪引いたら、笑い者になるよ」

8時30分受付なのに、超早い目覚めのお陰で「めざましテレビ」のニュースを
何度となく見てしまった。もう、暗記してしまうほどだ。
ベットで昨日のことを思い出しながら、メモを取ったが、
不思議なことに、目に映った『映像』より、耳で聴こえた『音』の方が覚えている。
いつも以上に、私の五感が研ぎ澄まされていることを実感した。
ビジネスホテルのチェックアウトを済ませて、いざ病院へ
3階の受付で、手続きをすませて、指示を待った。

「ねぇ・・・」
「なに? どうしたの?」
「あのさぁ・・・さっき、ホテルを出る時に、おしっこしちゃったよ」
「あっ・・、最初に尿を取るっていってたねぇ、そういえば」
「でも、検査じゃないから大丈夫なんじゃない?」
「そうだよね。今、すぐにって言われても出ないよ、きっと」

私の待ち合いになる場所へ通されて、カーテンを閉めた。
「T字体、持って来てくれましたか」
「はい、でも使い方がわかりません」
「そうでしたね。入院が初めてでしたものね。ごめんなさい・・」
そう言いながら、T字体の付け方を丁寧に教えてくれた。
「付け終わったら、声を掛けてくださいね」 と言う看護士さんの声が、
とても記憶に残っている。

「これってさ、フンドシだよね、どう見たって」
「まぁね、手術の時は、これしか身に付けないんだから、
外れないように しっかり縛っておきなさいよ」
「うん・・あそこの毛、剃るのかなぁ」
「なに、そんなこと心配してたの?、今は剃らないんじゃないのかな」
「だって、手術した人に聞くと、みんな剃るって言ってたから」
「はは〜ん、わかった。本当は剃ってもらいたいんだね。頼んできてあげようか。
あそこの毛、剃って欲しいみたいですけど・・ってさ」
「まっ、まさか・・・虐めないでよ、気分的にブルーなんだからさ」
「ははは、ごめん、ごめん。自信がなかったんだよね、ちんちん。(笑)」

「すみませ〜ん。用意できました」
「は〜い、うまく付けられました?、大丈夫みたいですね」
下半身をシゲジゲと見られたみたいで、恥ずかしかった。
その後、血圧、体温を計ったあと、点滴。
どんどん、オペモードに入っていくのを、他人事のように眺めていた。
まさか、こんなに早く、手術をするなんて考えてなかったから、
家族にも、お昼くらいに来て・・ってメールしちゃったばかり。

「まぁ、心細いとは思うけれど、いいんじゃない?」
「うん・・でも、もしもの時があったら・・」
「あるわけないでしょ、麻酔も全身じゃないんだし、すぐ終わるって」
「それよりも、手術中、意識があるから、いろいろなことが聞こえるらしいよ、
楽しみにしていたら・・」
「でも、メガネは外してくださいって書いてあったよ」
「あなたには、他にも感覚があるでしょ、目で見えるものを書いたって、
誰もおもしろがらないでしょ、テレビとかで見て知っているから」
「そうだよな、頑張ってみるよ」

「下山さ〜ん、そろそろ行きましょうか」
「はい」
点滴をしているので、あの点滴をぶら下げる台をガラガラ引っ張りながらの移動。
そのまま、エレベータに乗って・・ 手術室の前で、ちょっとした説明を聞いて、
看護婦さんにメガネを渡して・・、 いざ、手術室へ。

「へぇ〜、これが噂の手術室ねぇ〜、なんだかドキドキするよね」
「なんだ、その言い方、全然緊張していないんじゃないの、もしかしたら楽しんでる?」
「そんなことないけれど、仕方ないでしょ、もうまな板の上の鯉なんだから」
「うん、まぁね」
「ねぇ、ちょっと・・・音楽流れているよ。それも有線みたいな感じだよ」
「本当だぁ、BGMなのかと思ったら、今流行りのポップスだ。先生の好みなのかな」
「先生がリラックスするために音楽を流すって聞いたことあるけれど、本当なんだね」
「もしかしたら、演歌好きの先生だったら、手術中、演歌が流れているわけ?」
「うん、そうなんじゃないの。あとで聞いてみたら?」

まずは、局部麻酔。当然、下半身。
先生が、注射する場所を丁寧に探したあと、ちょっとチクッとしたが、無事完了。
だんだん、感覚がなくなってくるのがわかる。

「なんだか、オシリが重たくなってきたねぇ」
「そうそう、足の感覚も、長時間正座して、しびれた感じだね」
「もう、なにをされても、痛くないよ。まさか、これで麻酔終了?」
「先生が、『痛いですか?』って聞くけど、痛くないよ、
麻酔の効いているうちに、 早く手術して・・って感じだね」

「先生、5分たちました」
看護士さんの合図で、再度、痛いかどうか、確認をする。

「ねぇ〜、私たちのご主人って、単純だからさ、麻酔も早く効いちゃうんじゃないの」
「そうかもね、と・・いうことは、麻酔も早く覚めちゃうってこと?」
「そんなことはないでしょ、さすがに」
「そうだよね、おどかさないでよ」
「ほらほら、そんなこと心配しているうちに、始まるみたいだよ」
「うん・・メガネがなくて、手術室の中の様子がわかりづらいけど、まぁ、いいか」

仰向けになって、何度か血圧や心電図をチャックしながら、はじめるようだ。
たった痔の手術なのに、スタッフは、意外と大勢いる。

「今気が付いたんだけれど、簡単な手術っていってたけど、こんなに大勢の人がいるよ」
「本当だねぇ、意外と大手術だったりして・・」
「また、脅かすんだから。でもさ、面白いことに、男性はブルー系の手術服、
女性は男女共同参画を進めている人たちが見たら、一番最初に指摘されるよ、これって」
「まったく、これから手術だというのに、そんなこと考えられるあなたには、呆れるわ。
そんなこともどうでも言いでしょ、手術が成功することだけ祈っていれば・・」
「本当だよねぇ、自分でも嫌になるよ、この性格」

■第5話

準備は予想以上の早さで進められていく。
両手は縛られ、足は大股開き、目の前にカーテンみたいなものを掛けられ、視界は天井だけ。
たぶん、見たことないけれど、お産の時、こんな体制なんだろうぁ・・と考えていたら、
あの手術にはかかせないライトが、パッと点灯した。

「あっ・・白い巨塔そっくり」
「現実に見ると、凄い迫力だねぇ。テレビの世界だけだと思っていたのに」
「なにをバカなことを言ってるの、
まぁ、下からあのライトを見る経験なんてなかなかないんだから、 よく覚えておくと言いよ」
「ライト付く時、あの独特の効果音・ガシャンって音、聞こえなかったね」
「えっ、したでしょ。あなた、頭まで麻酔が効いちゃったんじゃないの」
「ざんね〜ん。あんまり覚えてないよ。せっかく、五感で書く『爆笑ドキュメンタリー』なのにさ。
一番肝心な音を聞き逃すなんて・・」
「まぁ、いいじゃないの。これから、いろいろ聴こえてくる音を覚えておけばさ」
「あっ、携帯が鳴ってる」
「あれは、病院内で使えるPHSじゃないの?プライベートの携帯じゃないからね」
「そうかなぁ、先生と看護婦さんのデートの約束だったりして。
今日はクリスマスイブだから、 何時に終わる?なんて確認とかさ」
「あなたも、相当、被害妄想だね、よくそんなことが考えられますこと」
「あっ、馬鹿にしてるな。話している内容が聞こえないから、余計に気になるよ。
『せっかのクリスマス・イブに、
なんで痔の手術なんてしなくちゃなんないんだよ、まったく』 なんて言ってないかな」
「もう、話す気にもならないわ。その想像力には尊敬しますけど・・、
一所懸命、手術してくれている先生に失礼だと思わないの?」
「いゃ〜、信頼しているから、いろいろ考えられるんだ」
「そう?単なるゴシップ記者みたいな発想、長生きするわ、ある意味で・・」
「今、手術してるんだよ、長生きするわ・・と言われてもねぇ。(笑)」

手術室では、カチャカチャと金属音が鳴り、
心拍とか血圧を測る計器から、 無機質な電子音が聞こえてくる。
時折、血圧を測る左手が、ぐっと圧迫されてきて、ストンとその圧迫が解き放される。
続いて、血圧や心拍数を知らせる看護婦さんが、数字を読み上げる。

「大きな手術では、この役は大切だよね、冷静に手術を見守る役目だから」
「そうそう、その役目の人が『先生、大変です。血圧が・・・脈拍が・・・』と大騒ぎして、
ドラマは緊張な場面へと突入。架橋に入っていくんだよねぇ」
「だから、そういう発想はやめなさいって。あなたは、今、手術しているんだから」
「だってさ、なにもハプニングがないと、書くことないんだもの」
「だからってさ、自分の手術でねハプニングを期待している人も少ないんじゃないの?、
いや、あなただけだと思うよ、そんなこと考えているのは」
「あっ?曲が変わった」
「もういいよ、曲が手術室内に流れていることだけわかればいいでしょ。
曲目なんて関係ないんだから」
「でも・・・『乾杯しよう、乾杯しよう』って歌詞だ。なんて曲だろう。う〜ん、気になる」
「じゃあ、先生に言って、知っている曲、流してもらおうか?、
それとも、大丈夫ですか?って、 なんども声をかけてくれる看護婦さんに、
なんて曲ですか?って聞いてあげようか?」
「いっ、いいよ。そこまでしなくても・・。
ねぇ、そういえばさ・・さっきから、おなかが張ってきて、オナラが出そうなんだよ」
「えっ、嘘でしょ?。先生が肛門の手術している時に、
オナラをする人なんていないでしょ。失礼よ」
「そんなことは、私だってわかってるよ。だから、相談しているんじゃないの?」
「何の相談ですか?」
「う〜ん、今度、大丈夫ですか?って聞かれたら、
オナラが出そうって言おうかどうか、迷ってんだよ、真剣に。
まだウンチが残ってたら大変なことになるでしょう」
「そんなに気になるなら、何でも言ってくださいって言ってたから、聞いてみたら?、
オナラしってもいいですかって・・(笑)まったく・・」
「う〜ん、本当に困った・・」

それでもおなかの方は、張ってくる。
オナラが出る前の感覚って、本人にもわかるから、
なんども、やば〜い、って思いながら、我慢した。
「先生・・」
「はい、どうしました? 痛いですか?」
「いえ・・さっきから、おなかが張って、オナラが出そうなんですが。
麻酔で感覚がないので身が出たら・・心配でして」
「あっ、そういう感覚はあるかもしれませんね、
ただ、手術前に取り除くものは全部取り除きましたから、御心配なく・・」
「・・・・・」

「う〜ん、話がうまく伝わらなかったよ、オナラをしてもいいかどうか、
聞きたかったのに、 余計なこと聞いたから」
「もう、何度も同じことも聞けないよ。我慢しなさい、男の子でしょ」
「あっ、またすぐ、その言葉で片付けるんだから。いけないんだよ、
男らしく、女らしくって言葉を使っては・・」
「はいはい、性差別になるんだったよねぇ。ジェンダーでしょ」
「それにしても、オナラした〜い」
「がまん、がまん」

手術は順調に進み、イボもなんなく私の身体から切断された。
「下山さん、これが取ったイボです」
先生が、無事、終わったことを告げながら、わざわざ見せてくれた。
手術前、妻が「乳頭みたい・・」と言った台詞が、思い浮かんだ。
まさしく、その大きさにそっくりだったから・・。

「ねぇ、意識がしっかりしているからなんだろうけれど、どうみた感想は?」
「う〜ん、見たくなかった、ずっと脳裏に焼き付いていそうだから」
「いいじゃないの、そんなに何度もあることじゃないんだからさ」
「まぁ、そうだけど・・、今度、乳頭をみたら、イボを思い出すんじゃないかと思って」
「あのねぇ、そういう話をしている訳じゃないの。
それとも、そういう機会がこれからもありそうってこと?」
「いやいや、そういう訳じゃないけれど・・。なんていったらいいのかなぁ、
あれを毎回、肛門の中に押し込んでいたんだなぁ・・と思うと、おかしくて」
「長年、あなたの下半身についていたものだから、愛着でもあるっていうの?」
「まぁ、それもちょっとあるね。(笑)イボさん、さようなら・・って感じかな」
「あなたらしい、感想だわ。呆れるけれど・・」

■第6話

手術時間、約1時間半。
ずっと大股を広げていたからか、ちょっと疲れてきた。
「はい、もうすぐ手術は終わりますよ」という先生の声と同時くらいに、
下半身に、痛みを感じるようになってきた。
「先生・・・」
「どうしました?」
「ちょっと、痛いんですか・・」
「えっ、もう痛さを感じますか?」
「はい・・」
どうやら、麻酔が切れてきたようだった。
緊急的に、痛み止めの注射をしてくれた。

「ほらほら、心配したとおりになったね」
「えっ?どういうこと?」
「手術始まる前に、麻酔注射したでしょ。その時、人より早く効いたみたいだったじゃないの、
あの時、うちのご主人は単純だから、効きやすく覚めやすいかもよって言ったでしょ」
「あ〜、確かに、そんなこと言ったね」
「占いとかすぐ信じちゃううし、そういう体質なのよ。
催眠術なんて、簡単にかかってしまうタイプだから。あぶないったらありゃしないわ」
「いいんじゃん、それがご主人のいいところなんだからさ」

「はい、最後の確認ですよ、ちょっと我慢してくださいね」
「先生・・いっ、痛い」と出かかった台詞を押し込めて、手術を終えた。
手術どうだった?と聞かれて、痛くなかったけれど、
最後に、手術確認で入れられた指(器具)が、 一番痛かった・・なんて、言える訳がない。

「よくさぁ、ホモとかゲイで、アナルなんとかってする人、いるじゃない?、
何考えているんだろう、痛いよ絶対に・・」
「まっ、まさか。ここまで終わって、そんなこと、考えていたの?」
「いや、たださ。足を思いきり広げて、指を入れられただけでこんなに痛いのに・・って思ったら、
なにが楽しいのかなって考えただけだってば・・」
「やめて、癖にならないでよ。痛さが快感に変わったなんて言い出しそうだから」
「うん、それだけは約束するよ、神に誓ってね。それにしても痛かったぁ」
「はい、ご苦労様」
「あっ、お疲れ様でしょ。ご苦労様って、目上の人が部下に言う台詞なんだよ。
俺は君の目下でもなんでもないんだから」
「どっちでもいいじゃない、そんなこと。これからも、仲良くやっていきましょうよ。
ご主人様の身体の中で」
「うん・・そうだね。そろそろ終わりのようだし」

「はい、これで全部終わりました」
「これから、病室へ運ぶストレッチャーに移しますから、そのままでいてください」
「自分で移れますよ」
「えっ、凄いですね。感覚が戻ってますか?」
「えぇ、もうたぶん、歩けると思いますよ」
「信じられませんね、普通なら、なかなか麻酔が覚めずに心配するのですが」
手術に立ち会ったスタッフの多くから、驚きと賞賛の声が漏れた。
喜んでいいのか、悲しんでいいのか、複雑な心境だった。

「ほら、やっぱり、私達のご主人は、変わっているんだよ」
「ははは、そうかもね。手術室から歩いて帰れます、なんていう人、いないものね」
「先生も驚いていたからさ。
きっと今日のクリスマス・イブのデートで、ワインとか傾けながら
『今日、面白い人がいてさぁ』なんて、話すんだろうなぁ」
「だから、勝手に想像するのやめなさいって」

驚異の回復力で、手術室を出ると、妻が心配そうな顔で待っていた。
きっと、私の中の2人の会話を聞いたら、呆れるんだろうなぁ、と思いながらも、
「よっ、終わったぞ」と声をかけたら、静かに笑ってくれた。
手術室を出る時、先生が私に声を掛けてくれた。
「クリスマス・イブですが、病室で過ごし下さい」と。

「ほら、やっぱり、今日は彼女とデートだよ。きっと」
「そんなことないって、私の緊張を取るために声かけてくれたのよ」
「まぁ、そういうことにしておこうか、今はこの先生だけが頼りだから」
「そうよ、あなたのお尻については、この先生が一番詳しいんだかららね、
そんな先生を疑っちゃうなんて、あとで痛くなった時、知らないから」
「うっ、1句浮かんだぞ」
『イブにオペ なぜかこの日は 空いていた』
「ほら、今月の上旬、初めて診察に来た時さ、てっきり、来年に入ってから、
もしかしたら2月くらい・・と言われるのを覚悟していたのにさ、
出来れば早いうちに・・という私の要望を聞いてくれて」
「そういえば・・・」(笑)
「でもよかったじゃないの。無事終わったんだし、年末年始で、
長期休暇もしないですんだんだし。 やっぱり、先生に感謝しなくちゃね」
「うん・・・」
「あれ、ばかり素直じゃないの、ちょっと気持ち悪いわね」
「そうかい、俺だって、そういう時もあるよ」

そうこうしているうちに、病室へ。 (とりあえず・・完・・おしまい)

■ふう・・一気に書きあげてしまった。
このあとの模様は、読者の皆さんの反応をみて・・(笑)。
気付いたことは、書きっぱなしでは駄目だなぁ・・ということ。
やはり、推敲をして、文章を削る必要があることを痛感した。
このまま書いていたら、たった4日間が100頁になってしまう恐怖さえ感じた。
記憶が鮮明だとイメージを五感で捉えているから、溢れるように文字が浮かんでしまう。
もっといろいろ体験しなくちゃダメかな。
みんなどんな体験談を読みたいのかなぁ・・そればかりが気になる、
にわかレポーター「酔っぱライター・腰痔ひびき」でした。
つまらないレポート日記でしたが、おつきあい、ありがとうございました。 ( ^-^)_旦〜
ホテルに閉じこもって、一気に書きあげる・・夢から目標に近付いた気がします。
あっ・・私の場合は、古びた旅館で、おいしいお酒と肴をつまみながら・・かな。

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